この記事を読むと、3つのものが手に入る:
- 「相手の立場で考える」って、本当はどういうことか
- 共感と「立場で考える」が、別物だったという科学の発見
- 相手を理解する力と、自分に正直になる勇気の、両方を持つ意味
💭 プロローグ: フリッキー、苦しいから助けを求めに来た
トップさーん、ちょっと聞いてくださいよ。オレ、本気で困ってるんすよ
フッ…どうした、若いの?
来月、大会あるんすよ。で、今、チームでまとまんなきゃいけない時期なんすけど…全然、噛み合わなくて
(タバコの煙を吐く)…どんな感じだ?
練習に来ない奴がいたり、来ても集中してなかったり、メンバー同士で空気重かったり…オレが何か言っても、特にアイツが、全然聞いてくれないんすよ
ふむ
大会近いのに、このままじゃヤバいって、皆もたぶん感じてる。でも、どうしていいか分かんないっす…オレ、リーダーじゃないけど、何とかしたくて。トップさん、なんかヒント、ないっすか?
(タバコの煙を吐く)…で、お前は、アイツの言ってることが分かるのか?
えっ?
お前は、アイツが何を考えてるか、ちゃんと考えたことがあるのか?って聞いてんだ
…(言葉に詰まる)
フッ。それが答えだろ。チームをまとめたきゃ、まず一番近い一人から始めろ。
いいか若いの。ダブルダッチってのはな、一人じゃできねえスポーツだ。縄を回す奴がいて、跳ぶ奴がいて、初めて成り立つ。チームを組むってことは、人間関係をやるってことだ。
で、その力はな、ダブルダッチを越える。仕事でも、家族でも、恋愛でも、お前がこの先どこ行っても役に立つ
文句を言うのは簡単だ。だが、せっかくの機会だろ?学んでみたっていいんじゃねえか
…学ぶ、っすか
そうだ。文句で終わらせる場所じゃねえ。人間関係の話、ちょっと長くなるが、聞いてけ
🤔 第一章: 「相手の立場で考える」って、よく言われるけど
『相手の立場に立って考えろ』ってフレーズ、聞いたことあるだろ?
あー、親とか先生とかによく言われるやつっす
でもよ、これがな、意外と難しい。お前、本当に意味分かってるか?
…相手の気持ちを考える、ってことっすよね?
それは『共感』って言うんだ。似てるけど、ちょっと違う
えっ、違うんすか!?
で、これがな、お前のチームの問題に、直結する話なんだ
チーム?
チームってのはな、『個人の能力』が高いやつを集めてもダメだ。お互いを分かろうとする土台がないと、まとまらねえ。
逆に、メンバー同士が『相手の頭の中をちゃんと理解できる』チームは、強い。練習も噛み合うし、大会本番でも崩れねえ。これは研究でも、現場でも、何度も証明されてる
…つまり、オレが今の状況を変えたかったら、まず『相手を理解する』ってことから始めればいい?
そういうことだ。だが、その『相手を理解する』って、本当はどういうことか。フッ、これが意外と分かってない奴が多い。ここで、世界の研究を引いてもらおう
マヤ、出番だ
(本を持って登場)…はいはい、呼ばれてきました
🔬 第二章: 科学が分けた「2つの違うもの」
2008年、アメリカの心理学者 Adam Galinsky(アダム・ガリンスキー)が、ある研究を発表した。
場所は Northwestern University(ノースウェスタン大学)Kellogg School of Management(ケロッグ経営大学院 — アメリカの有名なビジネススクール)。論文は Psychological Science という、心理学のトップ雑誌に載った
心理学のトップ雑誌…
Galinsky たちは、こんな問いを立てた。『人と人が話す時、相手を理解する方法は2種類ある。どっちが効果あるのか?』
1つ目: Perspective-taking(立場で考える) — 頭で『相手はどう考えてるか』を理解する力。
2つ目: Empathy(共感) — 心で『相手の気持ちを感じる』力

…なんとなく似てるけど、確かに違うっすね
そう。頭で考えるか、心で感じるか。ここが分かれ道。
Galinsky たちは、152人の MBA 学生(MBA = Master of Business Administration、経営学を学ぶ大学院生)を3つのグループに分けて、交渉ゲーム(相手と取引や話し合いをする練習問題)をやらせた。誰が一番、お互いに得する結論にたどり着けるかを調べたの
(タバコ吸いながら)で、結果は?
立場で考える(perspective-taking)を意識したグループが、一番高い割合で、お互いが得する解決策を見つけた。共感だけのグループは、相手を喜ばせようとするあまり、自分が損する選択をしがちだった
えっ、共感って良いことじゃないんすか?
共感は良いことよ。でも、相手の頭の中を理解するって意味では、立場で考える方が強い、ってことが分かった
🧠 第三章: 「立場で考える」って、具体的に何をする?
で、立場で考えるって、具体的に何すればいいんすか?
3つのステップ。これは Galinsky の論文と、その後の研究で確認されてる方法。
ステップ1: 相手の事情を、想像する
その人が今、何を抱えているか。仕事、家族、悩み、疲れ、経験。あんたが見えてないものを、まず想像してみる。
ステップ2: 相手の動機を、考える
その人が、なぜそう言ったのか。なぜそう動いたのか。理由を悪く決めつけないで、別の理由を3つ考えてみる。
ステップ3: 自分が見ている世界が、全部じゃないと知る
あんたが見えてる景色は、その人が見えてる景色とは違う。同じ部屋にいても、見えてるものは別々
…なんか、頭使うっすね
フッ、当然だ。心で感じるんじゃなくて、頭で考えるって言っただろ
🎵 第四章: ダブルダッチで言うと?
フリッキー、お前のチームの話に戻すぞ。アイツが分かってくれないって言ったよな
うっす…
アイツは、なぜそう言ったんだ?練習に来ない理由は?
…たぶん、バイト忙しいんすよ。最近シフト増えてるって聞いた
他には?
…えーと、本当はやる気あるけど、最近上手くできなくて、来づらいのかも…?
他には?
…家のことで、何かあるのかも、わかんないっすけど
ほら、見て。それが立場で考えるってこと。あんた、さっきまで『アイツが悪い』って思ってたよね?でも今、3つの可能性が見えた
…マジっすね…
3つの可能性が見えると、お前の対応が変わる。『なんで来ねえんだよ』じゃなくて、『最近どうした?バイト忙しいか?』って聞ける
同じ会話でも、入り口が違うと、結果が変わる。これが研究で証明されてるの
💬 第五章: 聞くという技術 — Active Listening(能動的傾聴)
で、相手の立場で考える、までは分かったっす。でも、その後どう話しかければいいんすか?
次の話。Active Listening(能動的傾聴)っていう技術がある
のうどうてき…?
提唱したのは、Carl Rogers(カール・ロジャーズ)っていう20世紀の有名な心理学者。臨床心理学の世界で広く使われてる方法。
3つだけ覚えればいい。繰り返す、確認する、否定しない

3つだけ?
繰り返す: 相手が言ったことを、自分の言葉で言い直す。『なるほど、最近忙しいってこと?』みたいに。
確認する: 『そう感じてるってこと?』『こういう意味で合ってる?』と聞く。
否定しない: 相手が話してる間は、否定しない。最後まで聞く。意見が違っても、『そう思ってるんだね』とまず受け取る
フッ、これがな、できる奴が少ない。みんな、相手が話してる途中から、自分の言いたいこと考え始めちまう
…オレも、それやってるかも…
お前だけじゃない、みんなだ。だが、これができる奴は、自然と人が集まってくる。NYで学んだ、本物の話だ
🌱 第六章: なぜ、これで人間関係が変わるのか
マヤさん、なんで立場で考える + 傾聴 で、人間関係が変わるんすか?
科学的に分かってることが、いくつかある。
1つ目: バイアスが減る
2011年の Todd, Bodenhausen, Richeson, Galinsky の研究(Journal of Personality and Social Psychology)で、立場で考える練習をした人は、無意識のバイアスが減ったことが分かった
バイアス?
無意識の決めつけ、思い込み。『この人はこういう人だ』って先入観が、薄まる。
2つ目: 協力行動が増える
同じ研究グループ(Galinsky & Moskowitz、2000年)で、立場で考える人は、見知らぬ人にも協力的になりやすいことが分かった。
3つ目: 信頼が生まれる
2008年の Galinsky の研究で、立場で考える行動は、お互いの信頼を深めることが確認されてる
バイアス減る、協力増える、信頼が生まれる…全部、人間関係に大事なやつっすね
(深く頷く)…俺がNYで覚えたことを、今の若いのが研究で証明してる。時代だな
💪 エピローグ: でも、自分の気持ちにも正直に
トップさん、マヤさん。オレ、明日の練習でアイツに話しかけてみるっす
どう話しかける?
『なんで来ないんだよ』じゃなくて、『最近どう?バイト忙しい?』って聞いてみるっす。あと、アイツが話してる途中で、口出さない
(笑って)悪くないじゃん、その3秒で得た学び
フッ、お前、ちょっと大人になったな
…でもトップさん、オレ、なんか恥ずかしいっすよ。急にアイツの話聞くって、なんか意識してるのバレバレで…
フッ。お前が恥ずかしいなら、相手も恥ずかしがってんだろ
えっ?
お前と同じだ。アイツも、本音言うのが恥ずかしいから言わねえ。だからこんな空気になってんだよ
(頷く)そうね。本音を言えない人 vs 言えない人。永遠に解けないループ
解くにはな、誰かが先に動くしかねえ。相手が変わるのを待つな。お前が、先に変われ
先に…
それができる奴だけが、空気を変える
うっす!
っていうかマヤさん、ちょっと聞きたいんすけど
ん?
マヤさん、いつもこんな冷静に相手の立場で考えてるんすか?なんか、すげー人格者って感じがするっす
(本を閉じる)…あー。それね
(タバコの煙を吐く)…マヤ、お前、何かあるな?
あたしね、昔チームにいたのよ。窪塚洋介みたいな喋り方の一般人が
…?
『俺ぇ〜、マジでぇ〜、それマジリスペクトっすわぁ〜』みたいな
あ、あの感じ…
あたし、それ、本当に無理だったの。価値観とかじゃなくて、生理的に。3ヶ月我慢して、相手の立場で考えようとしてみた。事情を想像した。動機を考えた
…で?
ぶちのめした
えっ
フッ
言葉でね。論理的に。1時間。本人と他のメンバーが見てる前で。完全勝利
お、おう…
あんたたち、勘違いしないで。今日の話は本当よ。研究も全部正しい。相手の立場で考えるのは、人生で大切なこと。
でもね、もう一つ大切なことがある。
自分の気持ちにも、正直になること
どんなに相手の立場を考えても、どうしても無理なものは無理。我慢し続けたら、自分が壊れる。その時は、ちゃんとぶつかる。相手の立場を考えた上で、自分の本音を伝える。それも、人生に必要なことなの
(小声で)…おお…
(小声で)…おお…
何よ、その目は
いや、なんでも、ないっす…
(タバコ消しながら)…俺は何も見てない、何も聞いてない
(笑って)Whatever. じゃ、今日の話、覚えとけ。3つよ
人間関係に悩んだ時。
『相手が悪い』と決めつける前に、3つだけ。
- 相手の立場で考える(頭で、相手の事情を想像する)
- 共感する(心で、相手の気持ちに寄り添う)
- 能動的に聞く(繰り返す、確認する、否定しない)
世界中の研究で確認されてる、人間関係の最初の一歩。
そして、もう一つ。
自分の気持ちにも、正直に。
両方を、忘れないこと。
👥 登場人物紹介
オレ、フリッキー!19歳、ダブルダッチ歴1年8ヶ月の大学2年生っす。今回は大会前にチームがまとまんなくて、トップさんに助けを求めにきた役!
フリッキー(主人公)
- 19歳、神奈川出身、大学2年生 + コンビニ夜勤バイト
- ダブルダッチ歴1年8ヶ月
- カッコつけてるけど、根は純粋
- 小学生時代、テストで全部の問題が解けなかった時に何も書かずに出して「間違ってない=ノーミス=100点です」と先生に言い張った事がある
- 口癖:「マジで?」「やばっ」「すげーすげー」
フッ…俺がトップだ。52歳、関内のレコード屋やってる。NYで覚えた人付き合いの本質、若いのに伝える役だ
トップ(ベテラン)
- 52歳、本名:三郎、関内のレコード屋店主
- 大阪 → 23歳でNYに渡る → 35歳で日本帰国
- ダブルダッチ歴30年以上、Grandmaster Flash と一晩飲んだ事がある
- ある日、みんなの飲み会でタクシー代をケチるために「俺歩きで帰るわ〜」と宣言、終電2分前まで粘って奇跡のタクシー代ゼロを狙った
- 口癖:「フッ…」「いいか、若いの」「あの頃のNYは…」
あたし、マヤ。30歳、ダブルダッチパフォーマー兼カルチャー誌ライター。文化人類学修士。今回はゲスト出演で、研究と科学的根拠を補強する役
マヤ(姉さん)
- 30歳、横浜出身、ダブルダッチパフォーマー兼カルチャー誌ライター
- 文化人類学修士、ダブルダッチ歴15年、英仏語堪能
- マイナーなアーティスト好きと言って、有名になった瞬間「もう違うんだよね」と言い出す。本人は「商業化されると本質が…」と論理的に説明できる
- 観葉植物の世話が下手で全部枯らす、窪塚洋介のファンだが、彼みたいな話し方をする一般人は嫌い
- 口癖:「で、それのソースは?」「あんたねぇ…」「Whatever.」「悪くないじゃん」(最大の褒め言葉)
📚 参考・出典
主要な研究
- Galinsky, A. D., Maddux, W. W., Gilin, D., & White, J. B. (2008) — “Why It Pays to Get Inside the Head of Your Opponent: The Differential Effects of Perspective Taking and Empathy in Negotiations.” Psychological Science, 19(4), 378-384. PubMed
- Galinsky, A. D., & Moskowitz, G. B. (2000) — “Perspective-Taking: Decreasing Stereotype Expression, Stereotype Accessibility, and In-Group Favoritism.” Journal of Personality and Social Psychology, 78(4), 708-724.
- Todd, A. R., Bodenhausen, G. V., Richeson, J. A., & Galinsky, A. D. (2011) — “Perspective Taking Combats Automatic Expressions of Racial Bias.” Journal of Personality and Social Psychology, 100(6), 1027-1042.
- Carl Rogers (1957, 1980) — Active Listening / Person-Centered Therapy の提唱者。”On Becoming a Person” (1961), “A Way of Being” (1980)
「自分の気持ちに正直になる」の心理学的裏付け
- Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985) — 自己決定理論(Self-Determination Theory)。自分の本音と一致した行動が、心理的幸福感に直結することを実証。”Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior” (Plenum, 1985)
- Wood, A. M., Linley, P. A., Maltby, J., Baliousis, M., & Joseph, S. (2008) — 本来性(authenticity)研究。自分らしくあることと心の健康の相関。”The authentic personality: A theoretical and empirical conceptualization and the development of the Authenticity Scale” (Journal of Counseling Psychology, 55(3), 385-399)
補足リソース
- Harvard Program on Negotiation — Perspective Taking and Empathy in Business Negotiations
- Association for Psychological Science — It Pays to Know Your Opponent
※ この記事で紹介した研究は、それぞれの論文・著作の文脈で発表されたものです。本文中の解釈や具体例(ダブルダッチへの置き換え等)は、原典の主旨を保ちつつ HARIBOW 受講者向けに編集しています。